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前橋地方裁判所 昭和53年(行ウ)7号 判決 1987年4月09日

前橋市下新田町三二九番地

原告

原戸晃

右訴訟代理人弁護士

飯野春正

野上恭道

野上佳世子

大塚武一

広田繁雄

右訴訟代理人弁護士

田見高秀

前橋市表町二丁目一六番七号

被告

前橋税務署長

村木孝

右指定代理人

榎本恒男

鈴木實

市川日出夫

鷲見守夫

牧村達雄

大原豊実

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年四月二六日付でした原告の昭和四八年分所得税の更正のうち、総所得金額一一〇万円、納付すべき税額一万四五〇〇円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定を取消す。

2  被告が昭和五一年四月二六日付でした原告の昭和四九年分所得税の更正のうち、総所得金額一〇二万五〇〇〇円、納付すべき税額三〇〇円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書地において建築業を営んでいるものであるが、被告に対し、原告の昭和四八年、四九年分の各総所得金額、所得税額を別表一の(一)、(二)欄記載のとおりそれぞれ確定申告したところ、被告は、昭和五一年四月二六日、右各総所得金額、所得税額を同表(三)、(四)欄記載の金額に更正する処分(以下「本件更正処分」という。)及び同表(五)欄記載の各過少申告加算税を賦課する処分をし、そのころ原告に対しその旨通知した。

2  原告は本件更正処分を不服として国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同所長は昭和五三年九月一八日、昭和四八年分につき請求を棄却する旨裁決をし、昭和四九年分については本件更正処分の一部を取り消して総所得金額、所得税額、過少申告加算税額をそれぞれ同表(六)ないし(八)欄記載の各金額とする旨の裁決をし、そのころ、原告にその旨通知した。

3  しかしながら、原告の各年分の所得金額は前記申告額のとおりであつて、被告の本件更正処分には、国税不服審判所長が裁決によつて取り消した部分を除き、原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

4  のみならず、被告の原告に対する直接調査及び原告顧客らに対する反面調査は、いずれも原告への十分な事前連絡を欠き、その調査方法も不適性であつて、原告の信用を失墜させるものであつた。このような質問検査権の行使は違法であり、かかる調査に基づく本件更正処分等は、課税標準等の数額の如何を問題とするまでもなく、違法とされねばならない。

よつて、原告は、本件更正処分(ただし昭和四九年分については審査請求により一部取り消された後のもの)のうち原告申告の各金額を超える部分、及び各過少申告加算税賦課決定(但し、昭和四九年分については審査裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3及び4の各事実は争う。

三  被告の主張

1  被告の調査方法の相当性

(一) 原告は、被告の原告に対する調査及び原告顧客等に対する反面調査はいずれも原告への事前連絡を欠くばかりでなく、各調査方法も適正を欠くと主張するけれども、まず、原告に対する調査は、事前に連絡ないし予告して行なわれているので、右主張はその前提を欠き失当である。また、税務職員は税務調査の手段として法定の質問検査権を行使し得るのであるが、質問検査の実施方法の細目については特段の規定がないから、権限ある税務職員の合理的な判断に委ねられているものと解される。それゆえ被告が、原告の同意なしにその取引先、銀行等に対していわゆる反面調査を実施したとしても、そのことのみによつて被告の調査が違法とれされる謂れはない。

(二) また、原告は、被告の反面調査の方法が原告の信用を失墜させる違法なものである旨主張するけれども、右調査の内容は単に原告の建築工事代金額を把握するためのものにすぎず、調査にあたつた係官らが原告の信用を失墜する虞のあるような行為や発言をした事実は存しない。

2  原告の所得金額算定の根拠

(一) 推計の必要性

(1) 被告は、原告(いわゆる白色申告者)の確定申告書を審理したところ、各年分の申告所得金額が他の同業者のそれと比較して過少であると認められ、また、各年分の申告書には必要経費等の記載がなく所得金額の計算内容が不明確であつたので、原告の各年分の所得税について調査を行うこととし、被告所部係官が昭和五〇年六月一〇日午前一〇時ころ、原告方へ臨場し、身分を明らかにしてその目的を告げたうえ、原告に対し申告所得金額の算出根拠の説明を求め、その後も同年八月一九日までの間、再三にわたり被告の所部係官が原告方を訪問し、収入金額や必要経費に関する契約書、帳簿書類等の提示を求めて調査に協力するよう要請したが、原告はこれに応ぜず、非協力的な態度に終始した。

(2) その後も原告の協力は全く得られなかつたので、被告は、帳簿等に基づいた実額による所得金額の把握は不可能であると判断し、反面調査によつて判断した原告の収入金額を基礎として、所得税法一五六条に基づき昭和四八、四九年分の原告の所得金額を推計したものである。

(二) 昭和四八年分の事業所得金額

原告の昭和四八年分の事業所得金額は、次のとおり三五九万三〇六三円と認められるので、右金額の範囲内でなされた本件更正処分(昭和四八年分)は適法である。

収入金額 五六九四万二三七五円

平均所得率 六・三一パーセント

事業所得金額 三五九万三〇六三円(収入金額に平均所得率を乗じて算出した金額)

右収入金額、平均所得率の詳細は以下のとおりである。

(1) 収入金額

原告は次の表のとおり建築工事を行い、合計五六九四万二三七五円の収入を得た。

<省略>

右表の順号一五の収入金額は、次の方法により把握したものである。

すなわち、被告所部係官の調査により、原告の昭和四八年中における建設工事は右順号1ないし14記載の一四件を上回るものであり、しかもその工事代金はほとんどが現金で支払われていることが判明し、かつ、原告の収入はすべて事業収入によることが明らかとなつた。そこで被告は、原告の取引金融機関である廐城信用金庫大橋支店における原告名義の普通預金口座及び手形貸付口座等、並びに群馬信用組合広瀬支店における原告名義の普通預金口座、当座預金口座及び手形貸付口座等を調査し、別表二、三記載のとおり、各口座への現金入金額(手形貸付口座は償還額)につきその預入原因を照合、分析して、原告の昭和四八年中における預入原因の不明な金額を算出し、これをその他の収入金額と認定した。

(2) 平均所得率 六・三一パーセント

所得率とは、収入金額の中に占める事業所得金額の割合であるが、被告は次の方法により、原告と同業者の平均所得率を六・三一パーセントと算出したが、これにより事業所得金額を推計することには合理性がある。

すなわち、被告は、原告の住所地を所轄する前橋税務署管内において原告と同種の建築を営んでいる個人事業者から、次の(ア)ないし(キ)のすべての条件を充たす者(以下「同業者」という。)二一名を抽出し、各同業者の所得率を算出し、これを基礎として統計学上一般に認められている方式により、別表六記載のとおり同業者の平均所得率を計算したものである。

(ア) 昭和四八年について、年間を通じて事業を継続しており、年の中途において開廃、転業など業態の変更のない者であること。

(イ) 帳簿書類により取引を正確に記帳しており、かつ、所得税青色申告決算書を提出している青色申告者であること。

(ウ) 雇人費の支払がある者であること。

(エ) 外注費の支払がある者であること。

(オ) 手間請負のない者であること。

(カ) 年間収入金額が、二〇〇〇万円以上の者であること。

(キ) 右(ア)ないし(カ)に該当する者で、税務署長から更正又は決定処分を受けた者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立期間及び出訴期間を経過していない者、ないしは当該処分に対して不服申立てを行い現在審理中又は訴訟係属中の者のいずれにも該当しないこと。

(三) 昭和四九年分の事業所得金額

原告の昭和四九年分の事業所得金額は、次のとおり五七二万八三〇七円と認められるので、右金額の範囲内でなされた本件更正処分(昭和四九年分)は適法である。

収入金額 八五一五万三三〇〇円

平均所得率 七・〇五パーセント

事業専従者控除額 二七万五〇〇〇円(原告の事業に従事している親族の事業専従者控除額)

事業所得金額 五七二万八三〇七円(収入金額に平均所得率を乗じた金額から事業専従者控除額を控除して算出した金額)

右収入金額、平均所得率の詳細は、以下のとおりである。

(1) 収入金額

原告は、次表のとおり建築工事を行い、合計八五一五万三三〇〇円の収入を得た。

<省略>

右表の順号二二の収入金額は、昭和四八年分の場合と同様の事情が認められたので、廐城信用金庫大橋支店等における原告名義の普通預金口座及び手形貸付金口座等を調査し、別表四、五記載のとおり各口座への現金入金額につき前記(二)・(1)と同様の方法による分析を加えて、原告の昭和四九年中におけるその他の工事収入金額を算出、認定したものである。

(2) 平均所得率

前記(二)・(2)と同様の方法により同業者の平均所得率七・〇五パーセントを算出したが、これにより事業所得金額を推計することには合理性がある。

すなわち前同様の基準(ただし、(カ)の年間収入金額は、両年に共通する同業者一九件の対前年増加額が平均約一〇〇〇万円となつたため、三〇〇〇万円以上の者であることに変更した。)により抽出した同業者二五名について所得率を算出し、これを基礎として統計学上一般に認められている方式により、別表七記載のとおり同業者の平均所得率を計算したものである。

3  過少申告加算税賦課の根拠

本件更正処分に基づいて納付すべき昭和四八年分の所得税額三三万四三〇〇円(申告税額と更正税額との差額)、昭和四九年分の所得税額四六万七四〇〇円(申告税額と裁決後の税額との差額)の計算の基礎となつた事実のうちには、国税通則法六五条二項に規定する正当な理由は認められなかつたので、被告は、同条一項の規定に基づき右各年分の過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、原告に対する調査について事前に連絡ないし予告しているとの点は否認し、その余は争う。

2  同1(二)は否認する。

3  同2(一)(1)のうち、原告がいわゆる白色申告者であること、各年分の申告書に必要経費等の記載がなかつたこと、被告所部係官が身分を明かして被告主張の日時に原告方に臨場し申告所得金額の算出根拠の説明を求めたこと、その後、再三被告所部係官が原告方を訪問し帳簿書類等の提示を求めたが、原告がこれを拒否したことはいずれも認めるが、その余は否認する。

4  同2(一)(2)のうち、被告が反面調査をしたことは認めるが、その余は知らない。

5  同2(二)の事実中

(一) 冒頭部分は否認する。

(二) (1)のうち、原告が収入金額表順号1ないし8及び10ないし13記載の各工事を行い収入を得たこと、廐城信用金庫大橋支店及び群馬信用組合広瀬支店の各原告名義普通預金口座の昭和四八年中におけるすべての預金金額が別表二、三の「預入状況」欄記載のとおりであることは認めるが、その余はすべて否認する。

(三) (2)はすべて争う。

6  同2の事実中

(一) 冒頭部分は否認する。

(二) (1)のうち、原告が収入金額表の順号1ないし21記載の各工事を行い収入を得たこと、廐城信用金庫大橋支店の原告名義普通預金口座及び手形貸付口座の昭和四九年中における預入金額が、別表四、五の「預入状況」欄記載のとおりであることは認めるが、その余はすべて否認する。

(三) (2)はすべて争う。

7  同3は争う。

五  所得金額算定についての被告の主張に対する原告の反論

1  中村道孝(昭和四八年分収入金額表順号9)からの収入金額

原告は、昭和四八年六月ころ、中村の新築工事のうち、屋根工事、電気工事、水道工事等を除く大工工事等を請け負つたが、これによる工事収入は、金二六〇万円である(被告主張の金額は、全工事代金であると推定される。)。

2  吉田リン子(吉竜)(同表順号14)からの収入金額

原告は、昭和四八年七月ころ、吉田の家屋改築工事を請け負い、これにより金六〇万円の収入を得た(被告主張の金額は、右改築に伴なう住宅設備機器の購入金額等を含めているものと推定される。)。

3  その他の工事収入(同表順号15)として主張されている収入金額

(一) 原告が廐城信用金庫大橋支店及び群馬信用組合広瀬支店と取引をしていることは事実であるが、これらの預金口座に預け入れられた事由は、左記のとおり種々存在する。

(1) まず、その主要なものは工事代金収入である。原告は右収入のほとんどをいつたん預金化するが、その方が安全であり、しかも金融機関から借入れを受ける際有利な条件となるからである。

(2) 次に借入金として受領したものが預金化されることがある。借入先は主として前記両金融機関であることが多いが、原告の親族やその他第三者である場合もある。更には廐城信用金庫から借り入れて同金庫の預金として預入れたものが、引出されて、群馬信用組合の預金口座に預け入れられることもありうる。

(3) いつたん関連業者等に対する支払のために引出された預金が、何らかの事情で支払いにならず、その全部もしくは一部が再び預金として預け入れられることもある。

(4) なお、いつたん生活費として妻に渡された家計用の金銭が、妻のいわゆるヘソクリと共に預金化されることもないではない。

(二) 右のような預入れ状況であつたから、被告において預入原因を捕捉しきれない金額を直ちにその他の工事収入額として断定することは、極めて杜撰な推計方法というべきである。

(三) すなわち、原告が昭和四八年中に同表記載の池田保子外一三名以外の者から取得した収入は左表のとおりであり、昭和四九年中に同年分収入金額表記載の榎本義一外二〇名以外の者から取得した収入は左表のとおりである。

<省略>

<省略>

(四) 而して、被告がその他の工事収入として主張する収入金額のうちには、別表八記載のとおりの誤りがある。

4  原告の施工工事の特質と所得率

(一) 原告の施工する木工事は、根駄棒、根駄かけ、回椽等の材木に更にカンナをかけて接着面を一層平滑なものとしこれに接着剤を塗付するため、その接着効果は極めて高く、また天井面は通常の高さ(八尺)より高くして快適さを追及し、更には床柱における貼物柱、長押における貼物材等の使用を控えるなど、構造材、造作材など材木一般にすべて良質のものを用いて実施されている。建築確認申請手続も一般の場合と異なり、すべて原告が自らサービスとしてこれを行い、申請者(施主)から同手続費用を徴することもない。設計料についても同様である。このため、原告の施工する建築請負工事は、精度の高い、上質のものとなつている。

(二) 右の結果、原告が建築請負工事によつて稼得する所得の割合は極めて低率となるが、このような特質を有する業者は数少ないから、同業者の平均所得率に基づいて原告の所得を推計することは合理性に欠ける。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の証拠目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、被告の原告に対する調査及びその顧客らに対する反面調査は、いずれも原告に対する事前連絡を欠くのみならず、その調査方法も不適性であつて、原告の信用を失墜するものであるから被告の質問検査権の行使は違法であり、かかる違法調査に基づく本件更正処分等は課税標準の数額の如何を問題とするまでもなく、違法であると主張するので、まず、この点について判断する。

1  原告がいわゆる白色申告者であり、同人の各年分の確定申告書に必要経費等の記載がなかつたこと、被告所部係官が昭和五〇年六月一〇日午前一〇時ころ原告方に臨場し、身分を明らかにしたうえ原告に対し申告所得金額の算出根拠について説明を求めたこと、その後も被告所部係官が再三原告方を訪れ、帳簿書類等の提示を求めたが原告がこれを拒否したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実に、証人石原正夫、同竹内恒雄の各証言並びに原告本人尋問の結果(但し、後記措信し難い部分を除く。)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  原告はいわゆる白色申告者であるが、前橋税務署の寺島統括官が原告の確定申告書を審理したところ、昭和四七年から昭和四九年分の申告所得金額が、新築増築資料不明等が多数あつたにもかかわらず、同業者の申告所得金額よりも過少であると認められたこと、各年分の申告書には所得金額が記載されていたものの収入金額、必要経費等の記載がなく、所得金額の計算方法・内容が不明確でその基礎に疑問があつたこと、過去において原告について税務調査をしていなかつたこと等から、原告の昭和四七年から昭和四九年分の所得税に関する調査をする必要を認め、昭和五〇年六月初めころ、同署所部の係官である竹内恒雄及び斉藤こうじに原告の昭和四七年から昭和四九年分の所得税について調査するよう指示した。

(二)  これを受けた竹内と斉藤は、昭和五〇年六月九日午前一一時ころ原告方に赴いたが、原告が不在であつたため応待に出たその母に来訪の目的を告げ、翌一〇日午前一〇時ころ改めて来訪する旨告げて辞去した。そして竹内らは、右予告の日時ころ原告方を訪ね、原告に対し、身分を明らかにして来訪目的を告げたうえ、昭和四七年から昭和四九年分の帳簿書類等の提示を求めたが、原告は「そのようなものはない。」といつて提示を拒否した。さらに竹内らが所得税の計算方法等を明らかにするよう求めたのに対しても、原告は、「仕事には自信がある。税金の申告には間違いはない。」等と述べるばかりでこれに応じなかつた。このように原告が非協力的な立場に終始するため、竹内らは当日の調査を打ち切り辞去した。

(三)  その後竹内らから原告の調査を引き継いだ同署所部係官の石原正夫と狩野隆市は、同年八月四日午前一〇時ころ原告方を訪ねだが、原告が不在であつたため、応待に出た妻に来意を告げ、帳簿の記帳等について尋ねると、同女から「記帳はしていない、仕事のことは分らない。」等の返答を得た。そのため、石原らは、原告の妻に後日改めて訪れる旨告げて辞去した。石原は、翌5日原告方に架電し、不在中の原告に代つて電話を受けた原告の妻に八月六日午前一一時に訪問する旨を告げ、原告の在宅を促したうえ、翌六日予告した時刻に原告方を訪れたところ、原告は作業所にいる由であつたため、さらに作業所まで赴き、原告に対し、調査に協力するよう求めたが、原告は、「この忙しいのに何回来ても同じだから、おぬしの方で勝手に調べて結構だ。」等大声でいうばかりで、前回同様非協力的な態度を変えなかつた。さらに石原は事前に原告に連絡のうえ、狩野を伴い、同月一九日にも原告をその作業所に訪ね、重ねて調査に協力するように求めたが、原告の非協力的態度は改まらなかつた。

(四)  そこで石原らは原告から所得税の調査について協力を得ることが期待できず帳簿類に基づく実額計算ができないと判断し、反面調査をする必要を認め、同月二〇日から原告の取引先、銀行等に対する反面調査を開始した。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。なお本件全証拠をもつてしても、被告の係官らが、原告の取引先、銀行等に対する反面調査を行うに際し、原告の信用を失墜するような行為や不用意な発言をしたと認めるに足りる証拠はない。

3  ところで、所得税法二三四条一項は、税務職員が所得税に関する調査について必要があるときは質問ないし検査をなしうる旨規定しているが、質問検査の程度、時期、場所等については特別の定めがなされていないから、そのような質問検査の実施方法の細目は、調査を行なう必要性と被調査者に被る不利益とを慎重に比較衡量し、それが社会通念上相当と認められる範囲内にある限り、質問検査を行なう税務職員の裁量に委ねられていると解することができる。したがつて、被調査者に対して調査の日時、場所等を事前に通知することなく調査を行ない、あるいは納税者の同意なしにその取引先、銀行等に対していわゆる反面調査を実施したとしても、それが社会通念上相当と考えられる範囲内において実施されている限りは、もとより適法な税務調査であるといわなけければならない(もつともいずれの場合も、被調査者に対し調査の理由・必要性を個別具体的に説明することが必要と考えられる。)

4  そこで、前認定事実に照らして考えると、原告については税務調査をする必要があるとした統括官の判断は相当と言いうるし、竹内恒雄らは、原告宅を初めて訪れた昭和五〇年六月九日は予め税務調査の日時を通知していなかつたものの、応待した原告の母に身分を明かして来意を告げており、予め訪問の日時を指定してあつた翌一〇日に原告宅を訪れた際には、直接原告に対して身分を明かしたうえ来意を告げているのである。してみれば以降原告は、担当職員らが原告の所得税に関する調査の目的で訪れていることを知悉していたものと認めざるを得ないし、担当職員が交替した当初の八月四日を除けば、二度目以降の質問調査は予め日時が通知されたうえでなされたことも明らかである。また、原告に対する調査が原告の非協力的な態度のため効を奏しなかつたため、被告において原告の取引先、銀行等に対するいわゆる反面調査を実施するの巳むなきに至つた経過も首肯するに十分であるし、その反面調査の過程において、担当職員らが原告の信用を失墜する慮があるような行為や不用意な発言をした事実が認められないことも前判示のとおりであつて、他に特段の事情も認められない以上、原告及びその取引先等に対する調査が社会通念上相当となしうる限度を逸脱しているものと認めることができないので、この点に関する原告の主張は理由がない。

三  次に、原告の昭和四八、四九年分の各総所得金額について判断する。

1  推計の必要性

被告は、原告の両年分の各収入金額の一部及び所得率につき、原告の預金額等及び同業者の一般的所得率に基づき推計しているところ、原告はその必要性がない旨反論する。しかし、前記二2の(一)ないし(四)認定の事実によれば、原告は係争年分の事業所得の総収入金額を明らかにする帳簿類を備えておらず、契約書、請求書、領収書等のいわゆる原始記録も満足に作成、保管していなかつたうえ、前橋税務署の所部係官らが数回にわたり原告を訪れ調査に協力を求めても、原告が全くこれに応じなかつたため、被告において、原告の係争各年分の総収入金額、必要経費につき実額を把握することができなかつたことが明らかであるから、所得税法一五六条に基づく推計の必要性があつたものと優に認めることができる。

2  収入金額についての推計の合理性

そこで、被告主張の推計方法の当否を検討する。被告の推計方法は、まず原告の総収入金額を、

(イ)  原告の取引先の調査等により具体的に判明した係争各年分の工事収入金額(抗弁2の収入金額表順号1ないし14及び同2の収入金額表順号1ないし22記載の各工事収入金額。以下「特定工事収入金額」という。)

(ロ)  原告名義の金融機関預金口座への入金総額から、特定工事収入金額の入金、事業収入とは明らかに無関係な預金利息及び預金相互の振替等による入金を控除した額(以下「その他の工事収入金額」という。)を加算して推計するものであるところ、証人田村隆の証言により真正に成立したものと認められる乙第二八、第二九号証の各一ないし三及び右証言、並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は工事収入をすべて金融機関に預金していたこと、原告の収入源は専ら建築請負工事収入であること、係争各年度に特定工事収入金額以外に工事収入金額のあることは原告も認めていること、右推計によつて得られる総収入金額(昭和四八年分が五六九四万二三七五円、昭和四九年分が八五一五万三三〇〇円)は、原告が昭和五一年一〇月一四日群馬県知事へ提出した建築業許可申請書の添付書類である「直前三年の各営業年度における工事施工金額」に記載された各年分の工事収入金額と概ね符合することが認められる。それそれゆえ本件においては、右の推計方法により総収入金額を認定することには、合理性があるというべきである。

3  昭和四八年分の総収入金額

特定工事収入金額について

原告が昭和四八年中に抗弁2の収入金額表の順号1ないし8及び10ないし13記載のとおり各建築工事を行い合計三八七一万〇二四五円の収入を得たことは当事者間に争いがない。

そして、いずれも証人本郷良一の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の一及び第一四号証の一及び三、原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証の二、印影が原告の印章により顕出されたことに争いがないので原告作成部分については真正に成立したと推認でき、その余の部分については証人本郷良一の証言により真正に成立したと認められる乙第一四号証の二、証人高林進の証言により真正に成立したと認められる乙第一五号証の一、印影が原告の印章により顕出されたことに争いがないので原告作成部分については真正に成立したものと推認でき、その余の部分については証人高林進の証言により真正に成立したと認められる乙第一五号証の二、証人矢亀勲の証言により真正に成立したと認められる乙第四一号証並びに本郷良一、同高林進の各証言によれば、原告は昭和四八年中に中村道孝から群馬県碓永郡松井田町大字坂本二一二番地所在の同人宅の新築工事を四二六万五一三〇円で請負い、右工事を完成して同人から同額の代金を受領したことが認められ、これに反する原告本人尋問の結果は前掲乙第四号証の一(乙第一四、第一五号証の各二も同一のもの)に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、証人矢亀勲の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第四二号証によれば、原告は昭和四八年中に吉田リン子から前橋市朝日町四丁目二五番一二号所在の中華料理店「吉竜」の店舗の改装工事を請け負い、これを完成して同女から代金一六〇万円を受領したことが認められる。原告は、吉田リン子からの工事収入は六〇万円に留まると主張して甲第八号証、第一〇二号証の一ないし八を提出し、その本人尋問において右主張に副う供述をする。しかしながら、甲第一〇二号証の一ないし八の記載内容によれば、原告は右改装工事にあたり解体工事、木工事、工賃として合計一九万五〇〇〇円を要したほか、下請業者に対し計五六万九三三〇円を支払つていることになるが、かかる工事を原告が六〇万円で請け負つたとするのは余りに不自然といわなければならないから、甲第一〇二号証の一及び原告本人尋問の結果は措信し難く、また、先の認定に反する甲第八一号証も乙第四二号証と対照すると採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) その他の工事収入金額について

昭和四八年中の廐城信用金庫大橋支店の原告名義の普通預金口座及び群馬信用組合広瀬支店の原告名義の普通預金口座の各預入金額がそれぞれ別表二、三の各「預入状況」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正を認めうる乙第八ないし第一二号証、証人鷲見守夫の証言により真正に成立したと認められる乙第五八号証及び右証言に、前記三2認定の事実を併せて考えれば、右各「預入状況」欄記載の各預入金額のうち、同表の各「預入原因」欄に預入原因が記載されたものは、同表記載のとおりの各原因に基づいて入金されたことが認められると共に、同欄に何ら預入原因が記載されていないもの(すなわち同表の「その他の工事収入金額」欄記載の金額)は、原告の建築業によるその他の工事金額に他ならないと推計するのが相当である。

ところで、原告は、被告の推計方法の合理性自体を争うほか、右預入金額の一部については別表八記載の預入原因に基づく入金であると主張し、それらを「その他の工事収入金額」とすることを争つて甲第八四号証の一、二(原告作成の陳述書)を提出するけれども、原告がその事業に関し帳簿書類等を備え付けていなかつたことは先に判示したとおりであつて、右甲第八四号証の一、二も、ひつきよう原告の記憶に基づいて作成されたものにすぎず、裏付けとなりうる資料を全く欠いているうえ、その記載内容も曖昧な面があり、たやすく措信し難い。したがつて原告の右主張は採用できず、前記推計の合理性についての判断を左右するに足りない。

(三) 以上の次第であるから、原告の昭和四八年分の総収入金額は、特定工事収入金額四四五七万五三七五円と、その他の工事収入金額一二三六万七〇〇〇円とを合計した五六九四万二三七五円と認定するのが相当である。

4  昭和四九年分の総収入金額

特定工事収入金額について

(一)  原告が昭和四九年中に抗弁2の収入金額表順号1ないし22記載のとおり各建築工事を行ない合計六〇一七万六〇五四円の収入を得たことは当事者間に争いがない。

(二)  その他の工事収入金額について

昭和四九年中の廐城信用金庫大橋支店の原告名義の普通預金口座及び手形貸付口座の各預入金額がそれぞれ別表四、五の各「預入状況」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、前掲乙第八ないし第一二号証、同第五八号証及び証人鷲見守夫の証言と前記三2認定の事実とを総合して考えると、右「預入状況」欄記載の各預入金額のうち同表の「預入原因」欄に預入原因が記載されていないもの(すなわち同表の「その他の工事収入金額」欄記載の金額)は、原告の建築業によるその他の工事収入金額であると推計して妨げない。

原告は、昭和四八年分収入金額と同様、「その他の工事収入金額」を争い、甲第八四号証の一、二を提出するが、右書証が措信し難いことは、昭和四八年分につき判示したとおりであり、他に前記推計の合理性を左右するに足りる証拠はない。

(三)  以上によれば、原告の昭和四九年分の総収入金額は、特定工事収入金額六〇一七万六〇五四円とその他の工事収入金額二四九七万七二四六円とを合計した八五一五万三三〇〇円と認めるのが相当である。

5  所得率

原告の昭和四八年、四九年分の各総収入金額及び事業所得金額の算定について推計が必要であること、総収入金額の推計方法が合理性を有していると判断しうることは、いずれも先に判示したとおりであるが、被告は、原告の営業規模と類似する同業者の平均所得率に基づいて原告の事業所得金額を推計すべきものとするので、その推計の合理性を検討する。

いずれも証人飯島貞男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、第二号証の一ないし五及び右証言、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  関東信越国税局長は、本件訴訟の資料に供する目的で、昭和五四年四月一八日付で、被告に対して通達をなし、前橋税務署管内に納税地を有し、木造建築工事ないし大工工事を営む個人事業者で昭和四八、四九年分について青色申告決算書を提出し、次の(ア)ないし(キ)の条件を満たす者全員につき報告を求めた。

(ア) 昭和四八年及び昭和四九年について、年間を通じ事業を継続しており、年の中途において開廃、転業など業態の変更のない者であること

(イ) 年間を通じて記帳がなされており、かつ、所得税青色申告決算書を提出している青色申告者であること

(ウ) 雇人費の支払があること

(エ) 外注費の支払があること、ただし、明らかに大工工事を外注に依存している者を除く。

(オ) 手間請負のない者であること

(カ) 年間収入金額が、昭和四八年分については二〇〇〇万円以上、昭和四九年分については三〇〇〇万円以上の者であること

(キ) 右(ア)ないし(カ)に該当する者で、税務署長から更正又は決定処分を受けた者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立期間及び出訴期間を経過していない者、ないしは当該処分に対して不服申立を行い現在審理中の者又は訴訟係属中の者でないこと

(2)  右通達を請けて、前橋税務署の松井滋統括官は、同月二〇日ころ、同署の係官飯島貞男に右通達の趣旨に則つた報告書の作成を命じた。同係官が調査した結果、通達で指定された要件を充足した同業者は、昭和四八年が二一名、昭和四九年が二五名であつたので、同人はその全員につき各係争年別に住所、氏名、収入金額、所得金額、所得率を記載した、同業者調査表及び被調査者の記号表を作成した。被告は、飯島係官の調査結果を昭和五四年五月三〇日付報告書にとりまとめて、関東信越国税局長宛に提出した(右報告書は、本訴において書証として提出されたが、納税者の秘密保持のため、被調査者(納税者)の住所、氏名部分を特に秘匿されている。

右報告書に則り、前記要件を全て備えた同業者の各所得率つき、まず算術平均及び標準偏差を計算し、これを基に限界値を算出してこれを超える同業者の所得率を基礎資料から除外したうえ、平均値を計算すると別表六、七記載のとおり昭和四八年が六・三一パーセント、昭和四九年が七・〇五パーセントとなる。

右認定事実によれば、同業者を抽出するに基準、方法は合理的と考えられるので、これにより抽出された同業者は、営業規模、営業形態等において原告と類似するものと推断できる。而してこれらの所得率も、昭和四八年においては最高が一四・二五パーセント、最低が三・五七パーセント、昭和四九年においても同じく一五・二一パーセントと五・〇四パーセントであつて比較的ばらつきが少なく、相当の範囲内にあるものということができるので、他に原告の事業所得金額を推計する合理的な方法も認められない本件にあたつては、同業者の平均所得率を事業所得金額の推計の基礎とする方法は合理性を有するというべきである。

ところで、原告は、他の同業者に比して自己の所得率は低率であると主張し、甲第五二号証の一ないし六、第五三号証の一ないし七及び第五四号証の一ないし四等を基礎資料として算出される所得率は大半がマイナスになつている旨その本人尋問において供述するけれども、原告が試算した工事は、係争各年分の工事のごとく一部にすぎず、それにより全体の所得率を捉えることは相当でないうえ、基礎資料とされた右各書証は、その成立経緯に多々の疑問を払拭できない。のみならず、そもそもその工事の大半が赤字などと言うことは、同業者の所得率に照らしてあまりに不自然であつてたやすく措信できない。したがつて、右原告の主張をもつてしても、前記認定にかかる所得率の合理性を左右することはできない。

6  特別経費

昭和四九年分の特別経費として事業専従者控除があり、その控除額が二七万五〇〇〇円であるとの主張は、原告において明らかに争わないものと認められる。

7  事業所得金額

以上のとおりであるから、原告の昭和四八年分及び昭和四九年の事業所得金額は次式のとおり、それぞれ三五九万三〇六三円及び五七二万八三〇七円となる。

(一)  昭和四八年分

(収入金額) (平均所得率) (事業所得金額)

五六九四万二三七五円×六・三一パーセント=三五九万三〇六三円

(二)  昭和四九年分

(事業専従者控額)

八五一五万三三〇〇円×七・〇五パーセント-二七万五〇〇〇円=五七二万八三〇七円

四  結論

以上の次第であるから、右認定の総所得金額の範囲内で課税標準を認定してなされた本件更正処分は正当であると認められ、また、本件更正処分に何ら違法とすべき瑕疵が存しない以上、被告が原告に対し国税通則法六五条に従い、本件更正処分により増加する税額に一〇〇分の五の割合を乗じて得た金額の範囲内で過少申告加算税の賦課決定も適法である。

よつて、原告の被告に対する各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 春日民雄 裁判官 市川頼明 裁判官 深見敏正)

別表一

<省略>

別表二(廐城信用金庫大橋支店 原戸晃名義普通預金口座)

<省略>

<省略>

<省略>

別表三(群馬信用組合広瀬支店 原戸晃名義普通預金口座)

<省略>

別表四(廐城信用金庫大橋支店 原戸晃名義普通預金口座)

<省略>

<省略>

<省略>

別表五(廐城信用金庫大橋支店 原戸晃名義手形貸付金口座)

<省略>

別表六

昭和48年分所得率

(1) 標準偏差の計算

<省略>

別表七

昭和49年分所得率

(1) 標準偏差の計算

<省略>

(2) 限界値の計算

<省略>

(3) 平均値の計算

<省略>

(2) 限界値の計算

<省略>

(3) 平均値の計算

<省略>

別表八

<省略>

<省略>

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